📌 この記事でわかること
- 年金の受給開始時期を9パターンで試算した結果
- 「長生きリスクに備えて繰下げ」という通説が必ずしも当てはまらないケース
- 試算に使った前提条件(ねんきん定期便の見込み額の扱い方)
退職を翌月に控え、徐々に「退職後の制度設計」を一つひとつ詰めています。
これまでこのブログでは、Claude Opus 4.7を使った2070年までの資産シミュレーションを通じて、枯渇確率が前回(1.5%)から今回(31.2%)に大きく変わったこと、そしてその数字をどう受け止めるかについて書いてきました。
数字を分解していくと、最終的な枯渇確率は「月35万円を何もせず使い続けた場合」の話であって、ちょっとした適応行動(副収入・支出見直し・住宅ダウンサイズ)を入れれば、妻の平均寿命までの枯渇確率は約10%にまで下げられることが見えてきました。
そして今回、もう一つ大きな選択肢に向き合いました。「年金はいつから受け取り始めるか」──です。
教科書的には「長生きリスクに備えて繰下げ」と言われますが、我が家のケース(妻が4歳年下、私には加給年金あり)で実際に試算してみると、通説通りとは限らない結果が出てきました。今日はその試算結果と、同じく決断を控えた方々への参考情報を、丁寧に書き残しておきます。
はじめに──この記事の試算前提について
本題に入る前に、大事な前置きをしておきます。この試算で使った年金額は、2025年のねんきん定期便をベースにしています。具体的には以下を前提にしています。
| 項目 | ねんきん定期便の見込み額 | 試算に使った金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 私の老齢年金(65歳開始換算) | 年228万円 | 年200万円 | 早期退職による厚生年金加入期間の短縮分を考慮して減額 |
| 妻の老齢年金(65歳開始換算) | 年144万円 | 年140万円 | 定期便の数字をほぼそのまま使用 |
| 加給年金 | ── | 年40万円(妻が65歳になるまで) | 制度上の支給額をもとに設定 |
私の年金については、2025年の定期便では65歳時点で年228万円という見込みが出ていました。ただし定期便の数字は「現在の加入実績が60歳まで続いた場合」の試算です。私は56歳で早期退職するため、その分の厚生年金加入期間が短くなります。この影響を考慮して、試算では保守的に年200万円としました。
妻については定期便の年144万円をほぼそのまま用いています。
いずれも確定額ではなく、今後の制度改正・賃金物価スライドの動き・追加の厚生年金加入の有無などで変動します。この記事の数字は「2026年5月時点の見込みで計算した一つの試算」として受け取ってください。最終的な受給開始の判断は、60歳直前にそのときの最新状況で改めて行う予定です。
使ったのはClaude Opus 4.7
前回までの記事と同じく、今回もClaude Opus 4.7を使いました。Anthropic社のAIで、複雑な金融計算が得意なモデルです。今回はこのClaudeに、私と妻それぞれの年金を60歳繰上げ・65歳標準・70歳繰下げ、計3×3=9通りの組み合わせで、2070年までの枯渇確率と中央値資産額を計算してもらいました。
年金の繰上げ・繰下げ、おさらい
公的年金は標準では65歳から受給開始ですが、60歳から75歳の間で受給開始時期を選べます。1962年4月2日以降生まれの方の場合、繰上げ受給は60歳から可能で1ヶ月あたり0.4%減額(60歳開始だと−24%が一生続く)、繰下げ受給は75歳まで可能で1ヶ月あたり0.7%増額(70歳開始だと+42%、75歳開始だと+84%)となります。
私の場合、各パターンの年金額(額面)はこうなります。
| 受給開始 | 私の年金額 | 妻の年金額 |
|---|---|---|
| 60歳繰上げ(−24%) | 152万円 | 106万円 |
| 65歳標準 | 200万円 | 140万円 |
| 70歳繰下げ(+42%) | 284万円 | 199万円 |
数字だけを見ると「70歳まで待てば一生、年84万円も多くもらえる」と繰下げが圧倒的に魅力的に見えます。でも実際には「待っている5年間の生活費」をどうするか、という問題があり、さらに我が家には加給年金という変数もある。シミュレーションで初めて見えてくる構造がありました。
加給年金──我が家のキーファクター
ここで重要な制度の話を一つ。加給年金です。加給年金とは、簡単に言うと「年下の配偶者がいる人へのボーナス」のような制度で、以下の条件を満たすと、配偶者が65歳になるまで年約40万円が上乗せされます。
- 厚生年金加入歴が20年以上ある人が
- 老齢厚生年金を受け取り始めて
- 配偶者が65歳未満で
- 配偶者の年収が850万円未満
我が家の場合、私が65歳になるのは2034年x月、妻が65歳になるのは2038年x月です。つまり、私が65歳から老齢厚生年金を受け取り始めれば、妻が65歳になるまでの約3年3ヶ月、合計約132万円の加給年金が追加でもらえる計算になります。
ここで重要なポイントがあります。加給年金は、私が繰下げ受給を選ぶともらえなくなります。日本年金機構の公式情報によれば、「老齢厚生年金(報酬比例部分)に加給年金が付く場合、加給年金は繰り上がらず本来の加算時期から付きます」とのこと。これを我が家のケースに当てはめると以下のようになります。
| 私の受給開始 | 加給年金 |
|---|---|
| 60歳繰上げ | 65歳から開始(合計132万円) |
| 65歳標準 | 同上(合計132万円) |
| 70歳繰下げ | 70歳時点で妻は既に66歳のためゼロ |
つまり、70歳繰下げを選ぶと、加給年金132万円を完全に失うことになります。実はこの点、私も最初は誤解していました。「繰下げで増額された年金+加給年金」がもらえるものだと思っていたのですが、正しくは「繰下げ期間中は加給年金も加算されない」のですね。私自身の盲点でした。
なお、私の他の年金収入(個人年金やiDeCo)は加給年金の支給要件には影響しません。加給年金の判定は「配偶者の年収」だけです。
9パターン試算の結果
Claude Opus 4.7に、私と妻それぞれの年金開始年齢を変えながら、3,000回のモンテカルロシミュレーションを9パターン回してもらいました。

これ、最初に見たときは少し混乱しました。基準ごとに、最強パターンが全く違うんです。
主要な指標で見たベストパターン
| 評価基準 | ベストパターン | 枯渇確率 |
|---|---|---|
| 私の平均寿命(81歳)まで | 私60歳 × 妻60歳 | 6.6% |
| 妻の平均寿命(87歳)まで | 私70歳 × 妻70歳 | 18.9% |
| 2070年(101歳)まで | 私70歳 × 妻70歳 | 27.4% |
| 2070年の中央値残高 | 私60歳 × 妻60歳 | +1.61億円 |
短期視点(私の寿命まで)と長期視点(妻の寿命まで・101歳まで)で、真逆の答えが出る。これが、年金繰下げの教科書的議論を複雑にしている本当の理由でした。
主要パターンの詳細比較
| パターン | 私81歳まで | 妻87歳まで | 2070年まで | 2070年中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 私65標準 × 妻65標準(基準) | 7.1% | 21.1% | 31.0% | +1.37億 |
| 私65標準 × 妻70繰下げ | 8.2% | 20.2% | 30.4% | +1.39億 |
| 私70繰下げ × 妻70繰下げ | 8.4% | 18.9% | 27.4% | +1.30億 |
| 私60繰上げ × 妻60繰上げ | 6.6% | 21.4% | 30.4% | +1.61億 |
| 私60繰上げ × 妻70繰下げ | 8.7% | 21.6% | 30.8% | +1.46億 |
この数字から読み取れる3つの構造
①「私の年金を繰下げる」と加給年金132万円を失う
私70繰下げのパターンは、加給年金喪失というハンデを背負っています。それでも妻87歳までの枯渇確率は最低(18.9%)まで下がります。繰下げによる年金増額が、加給年金132万円の損失を上回る効果があるということです。
②「妻の年金を繰下げる」にデメリットなし
妻の繰下げは加給年金に影響しません。妻の繰下げによる増額(年140万→199万、+59万円)が一生続くため、「妻70繰下げ」は妻が長生きするほど効く保険になります。
③「両方繰上げ」が短期視点で最強なのは、早期収入のキャッシュフロー効果
60歳から夫婦合わせて年258万円の年金収入が入ることで、退職直後のシーケンスリスクを早期に和らげる効果があります。ただし減額が一生続くため、長寿シナリオでは不利になります。
私の現時点での検討内容
数字を眺めて、私が現時点で「これかな」と思っているのは「私65歳標準 × 妻70歳繰下げ」の組み合わせです。理由は3つあります。
理由①:加給年金132万円を確実に確保
私が65歳から開始することで、妻が65歳になるまでの加給年金を取りこぼさない。
理由②:妻の長寿リスクへの保険
妻は私より4歳年下で、平均寿命でも妻のほうが私より約6年長生きする計算です。「私が逝ったあとの妻の6年」を考えると、妻の年金は多いに越したことはない。妻70歳繰下げで年199万円(+59万円)が一生続くのは、大きな安心材料です。
理由③:シーケンスリスクは私の65歳開始でカバー
退職直後の57〜64歳の脆弱な時期は、退職金・iDeCo・個人年金・個別株配当などでなんとか乗り切る計画です。私が65歳になれば年金が立ち上がり、シーケンスリスクの山場を越えられる構造になります。
ただし、これはあくまで現時点(2026年5月)での「検討中」の方向性です。最終判断にはまだ4年(私が60歳になる)から最大9年(私が65歳になる)あり、その間に退職後の実際の支出データ・投資運用の実績・健康状態・制度改正の動向・妻の希望、こうした要素が次々と変わっていきます。60歳直前、65歳直前のそれぞれの時点で、そのときの最新状況で改めて判断するのが現実的だと思っています。
「税金で得する年金所得額」という観点
年金額を考えるときに見落としがちな、もう一つの観点を整理しておきます。公的年金には公的年金等控除があり、さらに住民税非課税世帯になれるかどうかで、国民健康保険料・介護保険料も大きく変わります。
65歳以上の年金課税の基本
| 年金収入 | 税の扱い |
|---|---|
| 110万円まで | 公的年金等控除で課税ゼロ |
| 110万〜330万円 | 控除額110万円(一定) |
| 330万円超 | 控除率が変わり、累進的に税負担が増える |
住民税非課税ラインの目安
夫婦2人世帯(65歳以上)で、年金収入が合計211万円以下だと住民税が非課税になります。住民税非課税世帯になると、住民税ゼロのほか、国民健康保険料・介護保険料の大幅減額、高額療養費の自己負担限度額の引き下げなどの恩恵があり、合算すると年間で50万円前後の差が生まれるケースもあります。特に医療費が増える80代以降では、この差は無視できません。
我が家の場合、私の年金200万円+妻の年金140万円=計340万円が標準ケースで、住民税非課税ライン(211万円)を大きく超えています。つまり我が家は住民税非課税世帯にはなれないことがほぼ確定です。繰上げを選んでも夫婦で258万円なので非課税ラインは超えます。住民税非課税の観点は、我が家の受給戦略の決定要因にはなりません。
ただ、年金収入が少なめのご家庭にとっては、「あと一歩で非課税ラインを超えそう」なボーダーケースでは、繰上げ・繰下げの判断に住民税非課税が大きく効きます。ご自身の年金額と社会保険料の試算を、年金事務所や市役所で確認することをおすすめします。
夫婦の年齢差による一般的な傾向
ここまで我が家のケースを掘り下げてきましたが、読者の皆さんのケースは当然それぞれ異なります。特に夫婦の年齢差は、年金戦略を考える上で重要な変数です。
①夫婦同年代(年齢差0〜2歳)
加給年金の対象期間が短いため加給年金の重みが小さく、両方とも同じ時期に老化することから長寿リスクへの備えが重要になります。両方とも繰下げを検討する価値が高いケースです。
②夫が3〜5歳年上(もも吉のケース)
加給年金の対象期間が3〜5年あり、合計120〜200万円の価値があります。夫の繰下げは加給年金を犠牲にするため慎重に。妻のほうが長く生きる可能性が高いことから、「夫65歳標準 × 妻70歳繰下げ」が合理的になりやすいパターンです。
③夫が6歳以上年上
加給年金の対象期間が6年以上あり、累計240万円以上の価値があります。夫の繰下げによる加給年金喪失のダメージが大きいため、「夫65歳標準」を軸に検討するのが安心です。
④夫が年下の場合
加給年金は出ませんが、妻が厚生年金加入歴20年以上なら妻側に加給年金が出るケースもあります。パターンが入れ替わるイメージで、上記②③を逆に当てはめて考えるとよいでしょう。
また、妻(または夫)が厚生年金加入か国民年金のみかも重要な変数です。妻が国民年金のみだと繰下げ効果が相対的に小さく、妻が厚生年金加入だと繰下げ効果が大きく長寿リスク対策に有効になります。我が家は妻も会社員のため年140万円という比較的しっかりした年金が見込まれており、これが「妻70歳繰下げ」が有効な戦略になっているもう一つの理由でもあります。
繰上げと繰下げ、もう一つ大事な違い
繰上げ受給は、いったん請求したら取り消しできません。60歳で繰上げ請求して−24%の減額率を確定させると、その後の人生でずっと−24%が続きます。
一方、繰下げ受給は途中での方針変更が可能です。65歳の時点で「繰下げを選択する」と宣言する必要はなく、65歳以降に年金をもらわないまま放置していれば自動的に繰下げ扱いになります。例えば68歳の時点で「やっぱり受け取る」と決めれば、その時点での増額率(+25.2%)で開始できます。
つまり、繰下げは「選択肢を残したまま様子を見る」ことができる戦略です。退職直後の世界経済がどうなるか、自分の健康がどうか、妻の状況がどうか──こうした未来の不確実性に対して、繰下げという選択肢は柔軟性そのものを持っています。
逆に繰上げは、「60歳の時点で、その後の人生を確定させる」決断になります。60歳繰上げが数字上は最強に見える局面もありますが、この取り消し不可という制約の重さを考えると、最初に飛びつくべき選択肢ではないなと改めて思いました。
結局、どう決めるか──現時点での結論
①最終決定はまだ先
60歳直前、65歳直前のそれぞれの時点で、そのときの最新状況に基づいて判断します。今は「方向性を持っておく」段階です。
②現時点での方向性は「私65歳標準 × 妻70歳繰下げ」
加給年金132万円を確実に確保し、妻の長寿リスクに備え、繰下げの柔軟性を最大限活用します。
③軌道修正のトリガー
退職後の実支出が想定より大きく上振れたら妻の繰下げ短縮を検討、健康に強い不安が出てきたら早めの繰上げも視野に、制度改正があればその時点で再試算します。
④定期的な再シミュレーション
年に1〜2回、最新の資産状況と最新のAIで試算し直す予定です。
同じ立場の方へ──伝えたいこと
年金の繰上げ・繰下げは、退職後の生活設計の中で最も大きな選択の一つです。「最強の答え」を求めて検索すると、多くの記事で「長生きリスクに備えて繰下げが正解」という結論を見かけます。でも今回の試算で見えてきたのは、「正解」は家族構成・年齢差・収入構造によって、けっこう変わるということでした。
特に加給年金という制度は、見落とすと数百万円単位の差を生みます。ぜひご自身のねんきん定期便を改めて確認し、加給年金の有無・配偶者の年金額・夫婦の年齢差を踏まえて、ご自身のケースで一度試算してみることを強くおすすめします。
年金事務所での個別相談は無料です。複雑な家庭事情がある場合は、社会保険労務士に有料で相談する選択肢もあります。私自身、最終判断の前にはこうした専門家に相談するかもしれません。
これからも、定期的に見直していく
今回の試算は、あくまで2026年5月時点の数字に基づくものです。年金の受給開始年齢は、実際に60歳・65歳を迎えるまで確定する必要はありません。それまでの間に、退職後の実際の支出状況・運用実績・健康状態・制度改正など、判断に影響する情報が積み上がっていきます。
今後は年に1〜2回程度、そのときの最新情報をもとに試算を更新しながら、60歳に近づくにつれて徐々に判断の精度を高めていくつもりです。このブログでも、節目ごとに数字の変化と考え方の変化を記録していきたいと思います。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
本記事の試算は2026年5月時点の見込み額に基づくものです。年金制度は将来改正される可能性があります。最終的な年金受給開始の判断は、年金事務所での個別相談や、必要に応じて専門家への有料相談を経て決定してください。本記事は個人の見解であり、特定の選択を推奨するものではありません。

